映画『ヴェノム』:最悪の相棒。敏腕記者が地球外生命体<シンビオート>に寄生され誕生するダークヒーロー・アクション

正義感の強い敏腕記者エディ・ブロックは、極秘の宇宙探査計画を進め、人体実験で死者をだしているという怪しげな巨大科学企業<ライフ財団>の真相を追っていました。正義を追求するあまり、彼は恋人まで失い、職も追われることになってしまいます。しかし、財団の内部告発者から情報を受け取り、潜入取材を敢行した際、エディはそこで保管されていた地球外生命体<シンビオート>と接触してしまいます。この意思を持ったねばねばした生命体は瞬く間にエディの身体に寄生し、彼の脳内で声を発し始めます。「一つになれば、俺たちはなんだってできる」。シンビオートに寄生されたエディは、異形の存在「ヴェノム」へと変貌を遂げます。自分をコントロールできない恐怖と、想像を絶するパワーに魅了されるエディ。彼の前に、ライフ財団のCEOカールトン・ドレイクに寄生した最強のシンビオート「ライオット」が立ちはだかります。トム・ハーディ主演で贈る、マーベルコミック屈指のダークヒーローの誕生を描いた、異色のバディ・アクション映画です。
概要・原題
- 原題: Venom
- 公開年: 2018年(アメリカ)
- 上映時間: 112分
- ジャンル: SF、アクション、ダークヒーロー
- 監督: ルーベン・フライシャー(Ruben Fleischer)
- 原作: マーベル・コミック「ヴェノム」
- 音楽: ルドウィグ・ゴランソン(Ludwig Göransson)
- 出演者: トム・ハーディ(Tom Hardy)、ミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)、リズ・アーメッド(Riz Ahmed) 他
あらすじ
サンフランシスコを拠点とする敏腕調査報道記者エディ・ブロックは、婚約者アン・ウェインの勤め先でもある巨大企業<ライフ財団>の悪事を追っていました。財団のCEOカールトン・ドレイクは、宇宙から回収した共生生命体シンビオートを人類の未来に必要だと説き、ホームレスなどを利用した非人道的な人体実験を密かに繰り返していました。エディは、ドレイクへの強引な取材が原因で仕事とアンを同時に失い、人生のどん底に陥ります。数ヵ月後、ライフ財団の女性研究者ドーラから内部情報を得たエディは、財団の研究施設に潜入。そこで拘束されていたシンビオートの一体に接触してしまい、寄生されてしまいます。エディの身体はシンビオートによって超人的な力を得る一方、食欲不振や異常な行動に悩まされます。その頃、ドレイクは最も強力なシンビオート「ライオット」と共生し、全人類をシンビオートの宿主にするという恐るべき計画を実行に移そうとしていました。エディは、自身の中にいるシンビオート(ヴェノム)と協力し、ドレイク=ライオットを阻止するため、サンフランシスコの街を舞台に激しいバトルを繰り広げることになります。
キャスト
- エディ・ブロック/ヴェノム: トム・ハーディ(Tom Hardy)
- アン・ウェイン: ミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)
- カールトン・ドレイク/ライオット: リズ・アーメッド(Riz Ahmed)
- ダン・ルイス: リード・スコット(Reid Scott)
- ドーラ・スカース: ジェニー・スレイト(Jenny Slate)
- ミセス・チェン: ペギー・ルー(Peggy Lu)
主題歌・楽曲
- 音楽: ルドウィグ・ゴランソン(Ludwig Göransson)
- 特記事項: 本作の音楽を担当したのは、後に『ブラックパンサー』でアカデミー賞を受賞するルドウィグ・ゴランソンです。彼のスコアは、シンビオートのダークでグロテスクなイメージを反映しつつ、エディとヴェノムのコミカルなバディ感を強調する、ユニークで電子音を多用したサウンドが特徴です。主題歌には、世界的ラッパーのエミネム(Eminem)による書き下ろし楽曲「Venom」が起用され、映画の世界観を象徴するヘビーなトラックとなっています。
受賞歴
- 批評家からの評価は分かれましたが、全世界で約8億5600万ドルを超える興行収入を記録し、世界的な大ヒットとなりました。これにより、ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の基盤を確立し、続編の製作を決定づけました。トム・ハーディが一人二役でヴェノムの声とモーションキャプチャーも担当した演技は、特に高く評価されました。
撮影秘話
- 主人公エディ・ブロックを演じたトム・ハーディは、ヴェノム自身の声も担当しており、彼らの脳内でのコミカルな会話シーンは、ハーディの一人二役の演技によって生み出されました。収録では、ハーディの表情や動きを基にヴェノムのモーションキャプチャーが行われています。
- 監督のルーベン・フライシャーは、本作をホラー要素を含むSFアクションとして構想しており、シンビオートの寄生や変身シーンでは、そのグロテスクさを表現するために特殊メイクやVFXに力が入れられました。
- マーベル・コミックの生みの親であるスタン・リーが、恒例のカメオ出演を果たしており、エディがアンの家を出た後に声をかける老人の役で登場しています。
感想
『ヴェノム』は、従来のシリアスなダークヒーローものとは一線を画す、エディとヴェノムの「最悪だけど最高の相棒」としての関係性が最大の魅力です。当初は恐怖の対象だったヴェノムが、次第にエディにとってかけがえのない存在になっていく過程は、笑いと共感を呼びます。トム・ハーディが文字通り身体を張って演じ分けた二人のやり取りは、観客を惹きつけます。特に、ヴェノムがエディの体を制御し、彼らを追う追っ手と戦うカーチェイスやアクションシーンは、シンビオートの予測不能な動きと圧倒的なパワーが映像化され、その迫力に圧倒されます。
レビュー
肯定的な意見
・「エディとヴェノムの奇妙なバディ感がとにかく面白い。トム・ハーディの演技力が光るコメディ要素が秀逸。」
・「CGIによるヴェノムとライオットの最終決戦は迫力満点。シンビオートの液状化や変身の描写が新しい。」
・「原作コミックとは一味違う、愛嬌のあるダークヒーロー像を確立した。」
否定的な意見
・「ヴィランであるライオットとドレイクの描写が薄く、動機が弱い。」
・「コミックでのヴェノムのシリアスな側面や、スパイダーマンとの関係性が描かれていない点に不満が残る。」
考察
共生とアイデンティティの探求
本作は、エディ・ブロックという「負け犬」が、宇宙からの「負け犬」であるシンビオートと出会い、共生することで強大な存在「ヴェノム」となる過程を描いています。この物語のテーマは、単なるヒーローの誕生ではなく、エディの失われた自信と居場所の再構築、そして「最悪な自分」を受け入れることの重要性です。ヴェノムはエディの抱えるダークな感情や破壊衝動を具現化しつつも、次第にエディの正義感に影響され、地球を守る存在へと変化していきます。これは、寄生者と宿主という対立関係から、お互いになくてはならない「相棒」へと進化する、独特なアイデンティティの探求の物語と言えます。
「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」の始まり
本作は、ソニー・ピクチャーズが展開する「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」の第1作目であり、今後のユニバースの方向性を決定づける重要な作品となりました。スパイダーマン不在の中でヴェノムというヴィラン(反ヒーロー)を主役に据えることで、ダークでコミカルな独自の路線を確立しました。この成功が、後の『モービウス』や『マダム・ウェブ』などの製作に繋がっています。
※以下、映画のラストに関する重大なネタバレが含まれます。
未視聴の方はご注意ください。
ラスト
エディとヴェノムは、宇宙船の打ち上げを阻止するためにドレイク=ライオットと壮絶な最終決戦を繰り広げます。ライオットはヴェノムよりも強力なシンビオートでしたが、エディとヴェノムは協力し、爆発によってライオットをドレイクごと撃破することに成功します。最終的にヴェノムはエディの体内に残り、彼らはサンフランシスコの街で密かに悪党を「捕食」しながら暮らすことを選択します。そして、映画のミッドクレジットシーンでは、エディがサン・クエンティン州立刑務所に赴き、極悪非道な連続殺人鬼クレタス・キャサディ(ウディ・ハレルソン)に独占インタビューを行う様子が描かれます。キャサディはエディに向かって「カーネイジ(大殺戮)が起きるぞ」と不気味に予言し、続編『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』で登場する最悪のシンビオート「カーネイジ」の誕生を示唆して幕を閉じます。
視聴方法
DVD&Blu-ray情報
まとめ
『ヴェノム』は、マーベルコミックの複雑なキャラクターを、コメディとアクションが融合した独自のトーンで描き切った快作です。トム・ハーディの卓越した演技と、ヴェノムというキャラクターの持つダークな魅力が融合し、世界中で愛される異色のヒーロー像を確立しました。「最悪の相棒」コンビの誕生と、続編への期待が高まるラストシーンは、観客を興奮させること間違いありません。
映画のジャンル
SF、アクション、ダークヒーロー
- 映画 ヴェノム
- Venom
- トム・ハーディ
- シンビオート
- ルーベン・フライシャー
- マーベル