映画『シザーハンズ』:ティム・バートンが贈る、甘く切ない現代のおとぎ話

映画『シザーハンズ』(原題:Edward Scissorhands)は、ティム・バートン監督がその独特な映像センスと世界観で描き出す、甘く切ない現代のおとぎ話です。未完のまま世を去った発明家によって生み出された人造人間エドワードは、両手が鋭いハサミのまま孤独に暮らしていました。彼が外の世界、特に郊外のカラフルで均質な住宅街に連れ出されたことから物語は始まります。エドワードの純粋さと、その特異な手が生み出す芸術は、最初こそコミュニティの人々に歓迎されますが、やがて彼の異質さは人々の嫉妬や誤解を招き、波紋を広げます。ジョニー・デップが演じるエドワードの繊細な心情と、ウィノナ・ライダー演じるキムとの間に芽生える淡い恋が、観客の心に深く響く、孤独と愛の物語です。
概要・原題
- 原題: Edward Scissorhands
- 公開年: 1990年(アメリカ)
- 上映時間: 約105分
- ジャンル: ファンタジー、ロマンス、ドラマ
- 監督: Tim Burton(ティム・バートン)
- 特記事項: ティム・バートン監督とジョニー・デップの記念すべき初のタッグ作品であり、その後の二人のコラボレーションの原点となりました。
あらすじ
山頂の古びたゴシック調の屋敷に、人造人間の青年エドワードは一人で住んでいました。彼を生み出した発明家は、エドワードが完成する直前に急死したため、エドワードの両手は鋭いハサミのまま残されてしまいました。ある日、麓の街で化粧品のセールスウーマンをしているペグが、彼を屋敷から連れ出し、明るくカラフルな自宅に温かく迎え入れます。エドワードはその純粋な心と、ハサミの手を使って庭の植木やペットの毛、そして人々の髪の毛を見事な芸術作品に変える特異な才能で、すぐにコミュニティの人気者になります。しかし、人々が抱くエドワードに対する好奇心と好意は長くは続きません。ペグの娘であるキムとの間に淡い恋心が芽生える一方で、彼の異質さや、コミュニティの嫉妬と誤解が、些細な出来事をきっかけにエドワードを窮地に追い込んでいきます。
キャスト
- エドワード: Johnny Depp(ジョニー・デップ)
- キム: Winona Ryder(ウィノナ・ライダー)
- ペグ・ボッグス: Dianne Wiest(ダイアン・ウィースト)
- ジム: Anthony Hall(アンソニー・ホール)
- ジョイス: Kathy Baker(キャシー・ベイカー)
- 発明家: Vincent Price(ヴィンセント・プライス)
- 特記事項: ジョニー・デップが言葉少なな主人公を繊細に演じ、彼の演技は本作の感動の核となっています。また、発明家役は名優ヴィンセント・プライスの遺作の一つとなりました。
主題歌・楽曲
- 特記事項: 音楽はティム・バートン作品に欠かせない作曲家、ダニー・エルフマンが担当しました。彼のスコアは、エドワードの孤独と優しさを表現する幻想的で美しいオーケストラサウンドと、郊外の日常を彩るどこか軽妙な音楽が対比的に用いられています。特に、エドワードが氷の彫刻を削るシーンのメロディは、甘く切ない物語のテーマを象徴しています。
受賞歴
撮影秘話
- ゴシックとパステルの対比: 撮影地として選ばれたフロリダ州の住宅地は、バートン監督の独特な世界観を実現するため、全ての家々がパステルカラーに塗り直されました。エドワードの住む暗いゴシック調の屋敷と、明るい郊外の風景との強烈なコントラストが、映画のテーマを視覚的に強調しています。
- ジョニー・デップの役作り: エドワードの純粋さと孤独を表現するため、ジョニー・デップはセリフを極端に少なくし、主に目線と身体の動きだけで感情を伝えるという、難しい役作りに挑みました。
感想
『シザーハンズ』は、ティム・バートン監督のキャリアの中でも、最も美しく、最も切ない傑作の一つです。両手がハサミという特異な主人公エドワードを通して、集団の中での「異分子」への好奇心、そしてそれがやがて恐怖と排斥へと変わる人間の普遍的な心理を描き出しています。彼のハサミの手が、美しく繊細な芸術を生み出す一方で、愛する者を傷つけてしまうという悲劇的なアイロニーが、ロマンスとファンタジーの要素を際立たせています。特に、終盤のクライマックスと、ラストの雪のシーンは、純粋な愛の究極の形を表現しており、観客の心にいつまでも残る感動を与えます。
レビュー
肯定的な意見
・「ティム・バートン監督の映像美学が最も美しく結実した作品であり、映像、音楽、美術全てが一級品のおとぎ話である。」
・「ジョニー・デップはセリフが少ない中で、エドワードの繊細な感情を完璧に表現しており、彼のキャリアを代表する演技の一つだ。」
・「異質なものを受け入れられない集団心理の恐ろしさと、純粋な愛の尊さが深く描かれた、時代を超えた寓話的な傑作。」
否定的な意見
・「物語の展開がファンタジーとしては現実的で、エドワードの悲劇的な結末はあまりに切なく、ハッピーエンドを好む観客には辛いかもしれない。」
・「パステルカラーの郊外のシーンが、人によっては単調に感じられる可能性がある。」
考察
異質さを受け入れない郊外社会の風刺
ティム・バートン監督は、パステルカラーで統一された郊外の住宅街(サブービア)を舞台に選び、その画一的な美しさの裏にある人々の浅薄さや排他性を風刺しています。エドワードのゴシック調の屋敷と、麓のカラフルだが中身の無いコミュニティとのコントラストは強烈です。住民たちは最初はエドワードの「異質さ」を珍しいエンターテイメントとして消費しますが、彼の純粋な行動が自分たちの平穏や規範を乱すと感じた途端、一斉に彼を排斥し始めます。これは、他者への無理解と、同調圧力が生み出す集団的な悪意を描いています。
ハサミの手が象徴するもの
エドワードの「ハサミの手」は、彼の才能、純粋さ、そして悲劇性を同時に象徴しています。彼のハサミは、美しい庭の彫刻や、キムのための氷の彫刻といった「芸術」を生み出す創造性の源ですが、同時に、愛するキムを傷つけてしまうかもしれないという「危険性」や「破壊性」も内包しています。この二面性が、彼が永遠に社会に馴染めない、切なくも美しい理由となっています。
※以下、映画の結末と物語の根幹に関する重大なネタバレが含まれる可能性があります。
未視聴の方はご注意ください。
ラスト
ペグの家を追われたエドワードは、山頂の屋敷へと逃げ帰ります。彼を追ってきたのは、彼の恋人であるキムと、彼女の元恋人であるジムでした。屋敷での追跡劇の最中、エドワードはキムを守るためにジムをハサミで突き刺し、結果的に彼を死なせてしまいます。キムはエドワードをかばうため、屋敷に駆けつけてきた住民たちに対し、エドワードとジムが相討ちになったように見せかけ、エドワードも死んだと嘘をつきます。これにより、エドワードは永遠に山頂の屋敷で孤独に暮らすことになります。キムは街へ戻り、物語は現在、年老いたキムが孫娘にこの物語を語り聞かせている場面に戻ります。キムは、エドワードがまだ生きており、彼が今も氷の彫刻を削ることで、街に雪を降らせているのだと語ります。彼が雪を降らせることで、キムは遠く離れた場所からでもエドワードの存在を感じることができるという、切なくも美しい結末を迎えます。
視聴方法
DVD&Blu-ray情報
まとめ
映画『シザーハンズ』は、ジョニー・デップとティム・バートンの稀有な才能が結晶した、時代を超えて愛されるファンタジーロマンスです。両手がハサミという悲劇的な設定を持つエドワードの物語は、異質なものへの恐怖と、それにも勝る純粋な愛の美しさを描き出し、観客に深い感動と切なさを残します。
映画のジャンル
ファンタジー、ロマンス、ドラマ

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